学際研究って何がつらいの?──東大で修士をとる
辛いよ!!!!!!!!*1
一番最初に本音が出てしまいました。研究はたのしいよ。
学際に限らず研究やりたい人には役に立つと思いますが、
この記事書くのは特に高尚な目的はなくぶっちゃけ憂さ晴らしです。
何が難しいのか、その難しさを踏まえて「よく」研究する*2ためにやっといた方がいいことを、
ここでは「義務」と「権利」という対の形でさっくり説明したいと思います。
(なおここでいう義務とは権利に先立つものではありませんよ。あくまで対概念。やるべきことと、できること。なお「権利」にはやるべきことのためにできることを含む)
なお受験および研究手法について言及はしません。ここでいうのは主にいかに見てもらう人を作るかについてです*3。
何が難しいの?
とにかく(コメントできる)人がいない。これに始まりこれに終わる。なので博士課程のDC取得率が100%とかになる。自分で進められる人たちだけになる*4。
理系のラボなら10人とかいるんだろうけど全員から反応が返ってくるなんて考えられない(※私はイメージで話をしている。エビデンスはない)。学際研究の場合、発表がよく出来てるともはや突っ込むところすらないです。だってわかんないんだもん。
逆に言うとそこだけが見られます。論理構造がしっかりしてるかってことね。
自分語り入りますが自分の研究に専門レベルでコメントできる人ができたの、私の場合M3の春です(アプローチが決まらなかった自分のせいでもある)。同じ専門の人に出会うにはさらに数ヶ月を要した。私どうやって卒業する気だったんだろう。
あと、引用形式が当該のジャーナルに網羅されていない場合がある。私の研究はArXiv、アメリカの判例、世論調査、英文の発表予稿、Youtube、Twitter、新聞記事、これら全てを引用しているので事務的に大変だった。中にはあまり引用物としてあんまりオフィシャルじゃないものもあるけど。
なんで人間が重要なの?
教員と馬が合わない場合を想像してみてください。教員がゼミを何ヶ月もすっぽかしたりとか。教員が中間発表に来ないとか。教員がパワでハラだったりとか。まあ無限に理由はあります。
一言で言えば教員は場合によって頼りにならないんです。
学際研究においてこれが起こってしかも訊ける人がいないとなると詰みます。まあ話を聞けても「それ藁人形論法だよ(提出2週間前)」って言われたりしますけど、気付かないよりマシです。
この点学際における教員は専門が同じ指導教員とは使い方が違います。少なくとも変えるべきです。同様に扱うのは戦略的ではありません。
だから教員のタイプは重要になってきます。ここに来て、あなたと教員は需要と供給を満たせるかどうか、つまり相性の問題になるわけです。それも通常の研究室以上に高い比重で。
あなたは教員に何をして欲しいですか? やる気にさせて欲しい? 関連した情報が欲しい? それともみっちり教育して欲しい? 読み書きする方法を教えて欲しい?
これを入学前から把握できたらベストだと思いますがそれも現実的ではない。じゃあどうするか。
行動して失敗して試すんです。
私はひたすら「材料を見つけるのは上手いし勉強量もものすごいが、書くのが下手」だと言われてきました。自分はずっと話す方が下手だと思っていましたが、どうやらそうではなかったようです。
研究者志望として絶望的だと思いますか? そうでもありませんよ。まず、話すことと書くことは何が違うのかを導くことで、そのギャップを埋められる可能性が出てきます。どうしようもないのか、それとも技術の問題なのかわかる、わけです。この記事書いてるのも話すように書いています。書くのは後から編集できるから、そのテーマに対して言いたいことをひたすら書いて、あとは論理を整えればいい。そしてもう一つ、録音するという対策も成り立つ。
つまり本当に私に対して必要だったのは、整理する方法と、書く教育だったわけです。対策を怠ったつもりはありませんが直りませんでしたね。
やらなきゃいけないこととやれること
義務
=やらなければいけないこと
研究を進める
説明不要。割愛。ちゃんとやってりゃ周囲に好印象を与えられるので困って声かけたときに助けてくれる確率が上がる(打算的)。恩は先に安売りしておけ。利子がつく。
研究を説明する
はい学際研究特有のアレ。そうここは学際。あなたしかその研究してないから自動的に第一人者だよ。やったね。そのため、言い換えればあなたの研究が面白く重要であること、平たく言えば意義というやつを、説明する義務があります。なぜその研究テーマが大事なのか、なぜあなたがそれを面白いと思っているのか、それをまず近い人(ここではさしあたり同じゼミの人とします)にわかってもらう必要があります。それがわからないと、まずアドバイスをもらうことに支障をきたす可能性があります。
もちろん研究やっている以上はその人がある程度第一人者ですし、みな説明責任を負っていますが、学際の場合にはわけが違います。なぜなら前提知識を全く共有していないからです。場合によっては先駆者もいないし託す相手もいない。かといって「先行研究ありません」とか言おうもんなら叩かれる(ゼミで)。直接の先行研究がなくても、似たものとか、より大きな文脈とか、そういうのは見つかるよね? という。むしろどこが違うのかを積極的に示しなされ。
まあ、院に受かってるなら最低限の説明能力に関して不安はないと考えていいです*5。それがないとそもそも受からないからね。
次は、分野外の人にそれを理解してもらうための練習と、知識の蓄えが必要です。
学際だと二つの分野を重ね合わせていることもよくあるしね。それは単純に考えて二倍の勉強量が必要だということを意味します。
何を勉強したらわからない? 先行研究がない? 誰に訊けばいいのかもわからない? そうですか。味方がいなけりゃ作りましょう。
権利
=あなたができること
指導教員(と先輩)の使い倒し
これは真っ先に擁護されるべき学生としての権利です。うちのDの人も「Mの相談に乗るのはDの仕事」って言ってた! Dにも金は払われるべきだ。あの人たちちゃんと食ってるの?
頼るのド下手な人は好感度保って近くにいて。ちょくちょく話をしていろいろわかってもらいましょう。よくしてもらったらお礼も忘れないこと。
ガンガン外部の人にメールをする
先生方は学生をむげにできないし、それにあなたの研究が面白いと思ってもらえるなら、メールも返事がかえってくる(はず。必ずではない)。研究紹介の書類は用意しようね! せめてテーマは書こう。
これは私見ですし軽率になってしまうパターンもあるかと思いますが、返事なくても催促していいと思います。忘れられるようだったらその人の記憶には残らないので迷惑とかも思われないし、返事くれるようならあなたに興味があるってことだから、あなたはどの道損しません。変な返事が来た? 忘れろそんな奴。事前にわかってよかったね。
足を使え
学会に行って、テーマの近い発表を聞いて、(できれば印象的な)質問をする。うまくいけば向こうから話しかけてくれます。こなかったらこっちから行け。そうやって私もいくつか連絡先をゲットしていますし指導教官を紹介してもらった経験もありますし共同研究に発展したこともあります。出会い系みたいになってきた。
学内のサポート使え
具体的にはカウンセリング受けろ。これは正直人によりますが、自分はずいぶん助かりました。春学期公私ともにいろいろ重なって疲れ切ってしまいまして、以来カウンセリングにかかっていましたが、そのおかげで春学期最後の無茶振りと、秋学期の多忙な私生活+修士論文も乗り切れた(多分)。使えるものはなんでも使いましょう。院生活、ナメられることも多いけれど普通に多忙だしハードです。
なお利用のコツは定期的に入れることです。死にたくなってから予約取ってたら死にますよ。ドタキャンしてもいいから一週間に一回入れておけ。
むすび──枠を支える余白の重要性
どんな仕事も、メインだけで成り立ってるわけではありません。
飲食店の御手洗い、きれいであって欲しくないですか? あれは店員がやってる場合もあります。店員は「接客」業でありながら、接客でないところで客の印象を左右しうるわけです。売り上げに響くことだってあります。
いはんや研究をや。まして半ば自営業状態の研究する人にとって、売り込むのもメールするのも本読むのも資料まとめるのも自分。研究だけじゃないですよね? 自分を整えることと同様、味方を作ることも役に立ちます。
いろいろ書いてきたけど研究って楽しいことだよ。これは本心ですね。
最後にDの先輩の言葉を紹介して終わりにします。
「こんな職業でも見てくれは良い方がいい」